第二十五話 北の情勢

 ベルオーラは古くから陸路の要とされてきた都市だ。
 アラド=ヴァレン王国成立以前は旧アラドリア王国の首都だったこともあり、旧都区画に数多く残る建物群は古き時代の風情を今に伝えている。
 そして都市としての発展は東の臨海工業都市アレッタから西のアストリアス公国を繋ぐ鉄道の完成をもって隆盛を極めた。
 半島はもとより北大陸やパルネラ海を越えた先にあるレムリア地峡から日々大量の物資がここに集積され、仕分けされて各地の取引先へと出荷されていくのだ。
 駅近くの鉄道基地には何棟もの巨大な倉庫が軒を連ね、貨物を積んだ貨車がコンテナを降ろしては用意されたものを積み直し、日々忙しなく出入りを繰り返していた。
 サインツ家はこの都市の繁栄と共に財を成した一族だ。彼らはこの鉄道基地周辺の倉庫街を支配する元締めの一翼であり、街どころか国、ひいては半島全体の経済に大きな影響力を持っている。
 これだけ大きな商売をやっていれば、日の当たる場所には出てこれない連中との関わり合いもあるだろう。その令嬢たるプリムが攫われた理由など、彼らにしてみれば心当たりがありすぎて逆に特定が難しいに違いない。
 そんな大家の邸宅へ強引に侵入し、ひと騒動巻き起こしたあの狐少女が後で大目玉を食らったのは言うまでもない。
 街に到着した時点で赤や黄に色付いていた木々がその葉を散らし、年中通して温暖なフロンス半島にも冬の足音が聞こえ始めた頃。俺たちは半島南端から始まった長い旅を締め括る最後の別れを迎えた。

「もうすぐ三年か。長かった……」

 カクテルグラスを摘んで弄び、中で踊る乳白色の液体に視線を落としつつ遠い目でテレーゼは呟く。
 旅を共にした仲間たちが攫われた経緯は、旅の中で彼女らの口から語られたので概ね把握している。
 しかし主に聞き手に回っていた俺とカタリナ、そしてテレーゼの事情は語る機会が無かったので殆ど知られて居なかった。敢えて聞き出す理由も無かったし、自分の胸に止めて置けなくなればいつか話してくれるだろうと思っていた。
 今がその時なのだろう。
 年が明ける前に故郷へ帰りたいと言っていた彼女は明日、この街を発つ。
 共に数々の困難を乗り越え、波乱に満ちた旅路を踏破して導ききった我らが姉御への感謝と前途を祈って盛大なパーティを催――――そうとしたが本人に固辞されたため、ささやかな食事会を開いた。それもお開きになり、片付けを終えた俺とカタリナはテレーゼに夜の街へ連れ出されたのだ。

「傭兵崩れに村が襲われて、捕まった女子供は北の戦地へ売られたんだ。傭兵どもの慰み者にされて、顔見知りが何人も命を落としたよ」
「え……じゃあ、姉さんの子供って」
「うん、上の子はその時、病気に掛かって死んでしまった。子供が越えるにはあの山は厳しすぎたんだ……生きていれば今年で八歳になってたかねぇ」

 カクテルグラスに唇を付けたテレーゼはクイっとその中身を一気に呷る。それほど多くない乳白色の液体は淀みなく口へと消え、ほっそり白い喉へと嚥下されていく。

「ここに居たんじゃいつか自分も命を落とすって思ったら、居ても立ってもいられなくなってさ。機会を見つけて何とか逃げ出せたんだけど、戦場になってる山を一人で越えるのは無理だった。だから西回りでヴィグリードからアストリアスを通ってここを目指そうと行動したんだけど、身一つの裸同然で逃げた女が身銭を稼ぐ手なんて殆ど無いだろう? 追い詰められてたあたしは、限られた選択肢の中でも最悪手を選んじまった……命からがら逃げ出せたってのに、自分から抜け出せない檻の中に入っちまったのさ」

 片手で顔を覆い自嘲するようにクツクツと笑うその姿は自暴自棄になったような危うさが漂い、いつも見ていた頼りがいのある姉御とはかけ離れている。
 彼女の口から語られる内容も、目の前の紙一重な姿も酷く衝撃的だ。だがこのような姿を俺たちにだけ晒した意味を思い、静かに彼女の様子を見守る。
 そしてふと脳裏に浮かんだのはマドラの騒動で訪れた邂逅。前田アサカと名乗ったあの女は如何にも夜の女といった扇情的な姿で現れた。その前は男装で野盗の頭……あいつの所業は許されるものではないが、女一人でこの世界を生き抜くのは生半可や事ではないということだろう。それこそ泥水を啜るが如き覚悟と執念が無ければ……ということか。
 トカゲの姿では土台無理な話だが、仮に人の姿を与えられてあの荒野に放り出されたらどうなっていただろう。易々と死ぬつもりは無いが、彼女らに匹敵するほどの生への強い執着が俺にあるかと言われると自信が無い。

「上の子って事は、他にも居たの?」
「二つ歳下の子とその年に生まれたばかりの子が居てね、その子たちは夫が抱いていたんだ。だけど逃げ惑ううちに逸れてしまって、あたしと連れて逃げてた上の子だけ捕まってしまったんだよ。夫たちは捕まったとは聞いていなかったけど、生きているとも聞いてなかったからね……アラカンテから連絡を取って無事だって分かった時は、本当に嬉しかった」

 薄暗く静かな室内にバーテンダーが振るうシェイカーの音がひっそり響く。
 手早くシェイクを終えた彼は流れるような所作で黄白色の濁った中身を細長いグラスへ注ぎ、空になったカクテルグラスと交換するようにカウンターへ差し出した。
 それ掴み半分ほどを喉へ流し込んだテレーゼは大きく息を吐き、一つ息を吸うと更に深い溜息を吐く。

「でもねぇ……あたしは怖いんだ。子供を守れなかった上に数えるのも馬鹿らしいくらい男に身体を開いてさ、こんな母親としても妻としても駄目な汚れた女は拒絶されるんじゃないかって」

 仕方がなかった。
 そう思えるのは客観的に見ているからなのだろう。意地の悪い言い方をすれば、自分とは直接関わりのない事だから冷静に考えれる、ということだ。
 情けないことに、俺はこういう時に掛けられる言葉を持ち合わせていない。
 これまでに故郷へ送り届けてきた仲間たちも、それぞれが深く悩み、未来に怯えていた。その胸のうちを打ち明けれた時も無闇に励ますなんてことは憚られ、ただ話を聞くしか出来なかったのだ。
 カタリナの方をこっそり伺うと、彼女もまた思い詰めたような暗い表情で俯いている。程度や時間の差はあれど似たような経験をしているのだ、心身を蝕む深い傷が癒えるにはどれだけの時間が必要なのか分からない。
 グラスに残ったカクテルを煽り、俯いたテレーゼの啜り泣く声は夜闇に溶け入り消えていく。
 別れを前日に控えた最後の夜は静かに更けていき、翌日、彼女はトリーシャを伴って北の故郷へと帰っていった。



 トリーシャが帰ってきたのはそれから約一月後。日本の冬ほどではないが朝晩の冷え込みが少々気になる、冬のある日のことだった。
 何か納得できないものを内に抱えたように沈鬱な表情で戻ってきた彼女に何があったのかを尋ねても、答えてくれない。代わりに表情を硬くしたまま俺の部屋へやってくるなりこう告げた。

「竜人郷へ行くわよ」

 竜人郷はアラド=ヴァレン王国の北の国境付近にある集落だ。
 その名が示す通り、そこは希少種とされる竜人族が寄り集まって生活をしているという。
 竜人といえば真っ先に思い浮かべるのは縁の事だ。この子と何か関わりのある事だろうか。

「この子というより、貴女のことよ。ノヴァリスに立ち寄った時に竜人の商人と話す機会があったのだけど、羽竜族から竜人族の子が生まれる事はあるのかって聞いたのよ」

 ソファに腰を落ち着けたトリーシャはすらりと長い脚を組み、食事を終えてげっぷをさせたばかりの縁を抱いてクッションに座っている俺を見据えてつらつらと述べる。
 ノヴァリスは旧エルヴァレン王国より引継ぎアラド=ヴァレン王国の王都となった北の都だ。現在、このベルオーラからノヴァリスを繋ぐ鉄道の敷設が行われており、それが完成すればこの国は陸と海で二つの太い動脈を得る事になる。

「それで?」
「回答は『ありえない』よ。竜人族の尻尾は羽竜族のそれに似ているけれど、他は全くの別物だって笑われたわ」

 トリーシャの言葉は衝撃半分納得半分といった形で飲み込まれた。
 それはそうだろう。身体の造りから子供の生まれ方、何もかもが違いすぎる。問われた竜人も何を馬鹿な、と思ったことだろう。
 しかし現実にトカゲが産んだ竜人の子が存在し、腕の中で俺の顔を見上げている。顔を見返してやるとニパーっと笑顔を浮かべ、大分伸びた柔らかい髪と頬を撫でてやるとキャッキャとはしゃぐように声を上げた。
 こうして触れて、日々すくすくと成長しているこの子は『ありえない』の一言で片付けられる幻ではない。
 恐らく彼女もそれで終わりならば、こんな話はしないだろう。顔を上げて目で続きを促すと、トリーシャは硬い表情のまま頷いた。

「仮にそういう事が起こったならどういう可能性が考えられるか、と尋ねたの。すると彼はこう答えたわ。その子が卵から生まれたのなら与太話だ。でも臍の緒を引き摺って産まれたなら、その母親に秘密があるのではないか。仮にそれで困っている親子が居るならば、母親を竜人郷へ連れて行ってみるといい」

 それを聞いた俺は驚くべきかどうか迷ってしまい、結果的に曖昧な沈黙で応えてしまった。
 母親に秘密……ていうか謎だよな。俺にとっても自分がトカゲの姿なのは未だに納得の出来ていない事実だ。
 この世界にやってきた経緯を鑑みて、焼失した元の姿を取り戻す事は非常に困難であると思っている。
 それはそれとして、この姿になった理由については現在に至るも全く分かっていない。解明しようにも考える材料が絶対的に足りないので後回しにしていたが、仲間を故郷へ送り届ける旅が終わった今、いよいよ正面から取り組む時がきた。

「ただ、竜人郷の場所が問題よ」
「北って言えば戦争してるんだよな」
「ええ。戦火そのものは及んでいないけれど、傭兵崩れや焼け出された難民が野盗化して近隣の町村や山を越える商隊を襲っているの」

 トリーシャが術装器(パラスアテネ)を操作し、中空に浮かび上がった地図を指し示して説明してくれた。
 南半分にエスペリア首長連合国、北西部にアストリアス公国、北東部にアラド=ヴァレン王国が版図を築くフロンス半島と北大陸との間には峻厳なズールト山脈が横たわる。
 山脈の西端は半島を半ばまで二つに割るように伸び、アストリアスとアラド=ヴァレンの国境的な役割にもなっているようだ。その南端部で接した平地の国境線を跨いで鉄道が通っている。
 そして山脈の東側は南方へ伸びるレムリア地峡と枝分かれして更に伸び、海に面した断崖となって大陸東に広大な版図を持つメルテポルト共和国に届く辺りまで続いている。地図に描かれたその形は奇妙なもので、山脈東端からレムリア地峡南端までがまるで巨大な円の一部のように見えるのだ。
 本題の竜人郷はズールト山脈西側のおよそ中腹に位置する。戦争の中心とされる都市国家ブレイザブリグは山脈と地峡が枝分かれした部分の更に北の山裾にあるため、竜人郷とは結構距離が離れているようだ。

「テレーゼが住んでいた村がこの辺り。戦火を逃れた野盗がこんな所まで襲っているとなると、この辺りの山地一帯は全て危険と思ったほうがいいわ」

 トリーシャが指し示したのは竜人郷より南南東、山麓の辺り。一見すれば戦地からは大きく外れ、王都の膝元とも言えなくはない地域だ。
 山脈を貫き北へ抜ける大きな街道も近くを通っており、往来もそれなりにあったのだろうと推測出来る。だがこうなると疑問の一つや二つも浮かんでくる。

「王都からこんなに近い所が襲撃に遭ってるなら、いい加減軍も動くんじゃないか?」

 それだけではなく、北大陸からの最短ルートを野盗に押さえられているとなれば経済への打撃は相当なものだろう。大陸へ繋がる海路も半島最南端が政情不安で信頼性が低い。
 北大陸との物流が滞るならば、ここから王都までの鉄道が開通しても旨みは殆ど無いに等しい。
 これでは現地は勿論、南部の商人や諸侯らも黙ってはいまい。大陸諸国との動脈を保てず、出資した資金も回収出来ないとあれば政府、引いては王家への信頼に昏い影を落としかねない。

「彼らは国境の動きに神経を尖らせていてそれどころじゃないわ」

 そう述べながらトリーシャは二つの地点を指差した。
 一つは都市国家ブレイザブリグと国境を接している北東部。
 もう一つはヴィグリード王国と国境を接している北部だ。

「ヴィグリードってお前の故郷じゃなかったっけ? こことも戦争してるのか?」
「いいえ。戦争をしているのはブレイザブリグと大陸中部の諸国よ。でも戦時のドサクサに紛れて火事場泥棒をやらかそうって輩は必ず居るものでね。特にここの領主、イーダフェルト辺境伯の欲深さと戦好きは有名だから、どの国も警戒しているの」

 ヴィグリードの南東部一帯を囲むように指差したトリーシャの声は、何処となく刺々しいものが感じられた。過去に何かあったのだろうか。
 しかしなるほど、非常に分かりやすい理由だ。

「ここに張り付いている兵士ってどれくらい居るんだ」
「本陣の要塞に三千、それぞれの前線に二千と千を分散配置ってところかしらね」
「合計六千か」

 多いといえば多いが、ちょっと拍子抜けでもある。
 日本の戦国時代でも大名同士の戦となれば万の軍勢が合戦していたのだ。お世辞にも広いと言えない日本の地方大名でもそれだけの動員能力があったというのに、それを遥かに超える広い国土を有するこの国がたった六千人の動員で精一杯ってなんか納得いかない。
 そんな事を考えているとトリーシャの目付きが胡乱げかつみるみる険しくなっていく。

「思ったより少ないとか考えてるでしょ」

 図星を突かれてギクっと息を呑んだら、トリーシャの眉尻がピンと跳ねた。

「あのね、多分貴女が思い浮かべてるであろう大軍勢なんてそう動員出来るものではないの」
「そ、そうなのか?」
「有事に動員される兵士の多くは普段、別の職に就いている人たちなの。それだけ多くの人手を駆り出したらどれだけの影響が出るか、少し考えれば分かるでしょう?」
「それじゃこの前線に配備されている兵士も徴兵されてここに?」
「彼らは違うわね。八割がたは臨時雇の傭兵よ」
「八割? 残りの二割は?」
「貴族の子弟が中心の士官と、彼らが自領から連れてきた直属の兵士よ。兵士は家を継がない商家や農家の次男、三男が殆どね」

 六千のうち、所謂職業軍人は千人程度だという。

「これだけの兵力を何年も維持してここに張り付け続けているのだから、国庫の負担はかなりのものよ。彼らの支援のために要塞や砦に詰めている非戦闘員は兵士の三倍は居るでしょうから、掛かる費用は推して知るべし、てトコね」

 他にも兵士の欲求不満を解消するために、近隣の町や村に娯楽施設を用意する必要もある。さすがに公営は難しかろうが、支援金を出して誘致くらいはするだろう。ここでも出費が嵩む。

「そう言われると空寒くなるな……って、何年も?」
「ええ。ブレイザブリグが周辺諸国へ侵略を始めたのがだいたい十年前だったかしら。それから停戦や小康状態を挟んで断続的に戦争状態を継続しているの。アラド=ヴァレン(この国)はブレイザブリグとの積極的な交戦状態には入っていないけれど、諸国の要請と地域の治安維持を名目に兵力を張り付けて圧力を掛けている、ということよ」

 トリーシャは侵略を受けているという国々、ブレイザブリグの北に広がる平地にひしめき合っている都市国家群を大きな円で囲み、そこから線を引くようにアラド=ヴァレンを囲む。
 諸国の要請に応じた理由も先の事情を考慮すれば自ずと見えてくる。彼らはこの国にとって重要な取引相手なのだろう。

「だけどここ数年のブレイザブリグの攻勢は目を見張るものがあるわ。都市国家の多くが併呑されて、今や大陸中部の大部分を支配下に置いている。これには諸大国もさすがに黙っていないだろうから、いつ大きな動きが起こっても不思議じゃない状況なの」

 そう告げて彼女は北西のヴィグリード、北の神王教国、東のメルテポルトを指差した。

「その動きを見逃さず、いつでも動けるように彼らは兵力を集中させて時を待っている。場合によっては国内に戦時動員を掛けて交戦状態に入ることも視野に入れた臨戦態勢よ。ただ、そのせいで当初の重要な役割であるはずの街道と地域の治安維持が疎かになってしまった」
「なるほどなぁ……軍が治安維持を出来ないんだったら、今はどうしているんだ? さすがに野放しって訳じゃないだろ」
「冒険者ギルドや自警団が呼び掛けて討伐隊を組織していると聞いたけど、治安が回復しているとは到底思えなかったわね」

 つまり三年前と同じか、もしかしたら悪化しているか。

「そんな所に行かなきゃならんとか、激しく鬱になれるな……」
「でも他でもない竜人族があんな事を言ったのならば、何か手掛かりがある筈よ」
「……虎穴に入らずんば虎子を得ず、てか……」

 何の、というところは明言しない辺り、彼女自身も賭けであると認めているのだろう。
 だが元より雲を掴むような話なのだ。掴めるならばそれが火中にあろうと手を伸ばす、くらいの気概で臨まねば取っ掛かりさえも掴めない。

「分かった。まだ万全とはいえないが、大分回復出来たしな。でもこの子は連れて行けないぞ」
「当たり前よ、ユカリはここでしばらく預かって貰うしかないわ」

 何をほざいているのかと呆れた目を向けられ、加えて楽しげにはしゃぐ縁の声がまるで叱られている母親おれを見て笑っているように思えて非常に情けなくなり、思わず首を竦めてしまう。
 だいたい俺が乳を与えているわけでもないのだから、誰が世話をしようと大した問題にはならないのだ。……なんだかモヤモヤした気分になって非常に不快だが、とりあえず今は目を逸らしておく。
 大分良くなっているがまだまだ本調子ではないカタリナを同行させる事は出来ない。
 ラウラとサラは年始に行われる行事が云々と語りつつ、ゲンナリした顔で海を越えてレムリアへ帰ったばかりだ。
 プリムは論外だ。半島有数の富豪令嬢をわざわざそんなところに連れて行くなど、カモネギとかそんなレベルの話ではない。そもそも折角家に帰ったというのに、また危険な旅に同行させるなどありえない。
 ジャネットは未だここに来ていない。
 奇しくもこの虎穴へ飛び込むのは俺とトリーシャの二人だけとなる。場所が場所だけに長居はしないだろう、もしかしたら行って帰るだけになるかもしれない。


 トリーシャの帰還から一週間後、旅支度を整えた俺たちは北へ向けて再び旅立った。


初稿 2013.08.13
更新

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